2016

ITIJC Outstanding Paper Award 

 
加藤 明彦(Eli Lilly)
望月 建爾 (Purdue University)
 

審査員

 
根岸 英一   (Purdue University)
横田 博樹 (Indiana University)
栗原 徳善 (Indiana University)
木原 大亮 (Purdue University)
 

1. 加藤 明彦 (Eli Lilly) 
著者

Kato AS, Burris KD, Gardinier KM, Gernert DL, Porter WJ, Reel J, Ding C, Tu Y, Schober DA, Lee MR, Heinz BA, Fitch TE, Gleason SD, Catlow JT, Yu H, Fitzjohn SM, Pasqui F, Wang H, Qian YW, Sher E, Zwart R, Wafford KA, Rasmussen K, Ornstein PL, Isaac JTR, Nisenbaum ES, Bredt DS, Witkin JM

題名

Forebrain-selective AMPA-receptor antagonism guided by TARP γ-8 as an antiepileptic mechanism

雑誌名

Nature Medicine

審査コメント

●根岸先生
 I find Dr. Kato’s paper in Nature Medicine to be a truly outstanding report on potentially significant findings of therapeutic significance including detailed mechanistic clarification based on copious experimental data.
●横田先生
 Dr. Kato's paper in Nat Med is exceptional, considering the therapeutic significance, mechanistic clarity, and an incredible amount of supporting data in various assays.
●栗原先生
 雑誌のインパクトファクター、内容とも賞賛に値する論文です。是非、副作用の少ない抗てんかん薬の開発に発展させていただきたい。
●木原先生
 てんかん治療のブレイクスルーになる発見で、実際の製薬への応用に直接的につながると思われる研究です。申請者は渡米から長いが、この論文を機に独立など次のキャリアステップに繋げることを期待したいと思います。
 

論文要旨

 AMPA受容体は興奮性シナプス伝達の根幹を担う、イオン透過型グルタミン酸受容体である。AMPA受容体アンタゴニストは効果的な抗てんかん薬と成り得るが、AMPA受容体は神経系に普遍的に存在するため、運動障害や過剰な鎮静状態(sedation)を惹き起こす。
 我々は、前脳特異的に発現している、AMPA受容体の補助サブユニット(auxiliary subunit)であるTARP γ-8を含むAMPA受容体のみを阻害し、それ以外のAMPA受容体には効力のない有機化合物を手にすることに成功した(LY3130481)。LY3130481のTARP γ-8依存性は、膜貫通ドメインTM3とTM4に存在するγ-8にユニークな2アミノ酸によって決定される。LY3130481は、γ-8が発現している海馬、大脳皮質のAMPA 受容体活性を抑制するが、γ-8が発現していない小脳Purkinje細胞のAMPA受容体活性には影響を及ぼさないことから、LY3130481は最初の脳領域特異的AMPA受容体アンタゴニストとなった。
 更に、これまでのTARP非依存的AMPAアンタゴニストと異なり、いくつかのモデルてんかんを、運動障害の副作用なしに、効果的に抑制することも明らかにした。主要、修飾サブユニットの組み合わせを用いた神経回路特異的な薬理学的修飾はより効果的で副作用の少ない新薬開発の戦略と成り得る。。
 

2. 望月 建爾 (Purdue University) 
著者

K. Mochizuki*, S. R. Pattenaude, D. Ben-Amotz

題名

Influence of Cononsolvency on the Aggregation of Tertiary Butyl Alcohol in Methanol-Water Mixtures

雑誌名

Journal of American Chemical Society

審査コメント

●根岸先生
 This work makes significant contributions on clarifications of molecular-level mechanisms of interaction between solutes and solvents.  Use of experimental data and computer simulation is particularly noteworthy.
●横田先生
 The paper in JACS is outstanding, with concise and clear data using both experimental and computational analyses.
●栗原先生
 共貧溶媒効果の本質がメタノール濃度により変化する疎水基の引力相互作用にあることを独自の方法で発見されたこと、さらにこの発見が医学から材料化学の分野で応用される可能性がすばらしいです。
●木原先生
 溶媒と溶質の相互作用の基本的な分子メカニズムはいまだ分子レベルで解明されていないことが多いようで、この論文の共貧溶媒効果もその一つである。今回の論文は、コンピュータシミュレーションと実験とを組み合わせることで、解明への方向性の一歩を示した点で、分野の全体の発展に総合的に寄与すると期待できる。
  申請者は、コンピュータシミュレーションを用いた理論的な仕事に日本で従事してきたが、今回の短い留学で実験とシミュレーションを組み合わせる新しい方向を開拓している点も評価したいと思います。
 

論文要旨

 共貧溶媒効果とは、高分子が水とアルコール、それぞれの溶媒には溶ける(溶液は透明)一方で、水とアルコールの混合溶媒には溶けない(白濁する)という不思議な現象です。この現象は広く知られていましたが、その分子機構は不明のままでした。申請者は、問題究明のためには、共貧溶媒効果を引き起こす最低限の要素を特定する事が重要だと考えました。具体的には、高分子以外の単純な分子(TBA)でも共貧溶媒効果が起こるのか?を調べました。
 TBA(C4H10O)は、高分子とは違い非常に単純な構造をしています。いかなる濃度のメタノール水溶液でも無限に溶け、白濁や相分離が起こらないため、目で見て凝集を調べることはできません。本研究は、ラマン分光法と多変量スペクトル分解法を組み合わせた実験方法を用い、TBA分子の周りに配位する溶媒分子の量を評価する事で、メタノール水溶液中でTBA分子の凝集が起こっている事を明らかにしました。さらに、分子シミュレーションと理論化学的手法(Wyman-Tanford理論)を用いて詳細を調べ、TBAがメタノール水溶液中で凝縮しやすいのは、メタノールが単体のTBAよりも、凝集したTBAを好む事が原因であり、またメタノール水溶液中でTBA分子の疎水基同士が強い引力相互作用を示す事を見つけました。 
 これらの結果は、一見複雑に見える共貧溶媒効果の本質は、高分子の複雑な構造にあるのではなく、極端に小さな分子でも観察でき、メタノール濃度により変化する疎水基の引力相互作用にある事を見つけました。外部刺激により構造変化する高分子は、体内での薬物輸送、ナノスケールの流れの制御など、医学から材料化学までさまざまな分野に応用・発展できます。本研究による共貧溶媒効果の基礎的な理解が進んだことで、そのような分野における分子設計などに貢献することが期待されます。
 

2015

ITIJC Outstanding Paper Award 得票数上位者3名

 
寺町順平(徳島大学、旧所属Indiana University) 
内田昌樹(Indiana University)
寺師玄記(Purdue University)
 

審査員

 
根岸 英一   (Purdue University)
横田 博樹 (Indiana University)
栗原 徳善 (Indiana University)
加藤 明彦 (Eli Lilly)
 

1. 寺町順平(徳島大学、旧所属Indiana University) 
著者

Teramachi J, Silbermann R, Yang P, Zhao W, Mohammad KS, Guo J, Anderson JL, Zhou D, Feng R, Myint KZ, Maertz N, Beumer JH, Eiseman JL, Windle JJ, Xie XQ, Roodman GD, Kurihara N.

題名

Blocking the ZZ domain of sequestosome 1/p62 suppresses myeloma growth and osteoclast formation in vitro and induces dramatic bone formation in myeloma-bearing bones in vivo.

雑誌名

Leukemia

審査コメント

●根岸先生
 詳細までのevaluationは極めて難しいが医学的に重要な結果が得られていると思われる。更なる発展を期待して強いSupportに値するものと判断する
●横田先生
 This is one of the best papers for its comprehensive analysis of tumor growth and its link to osteoclasts.
●加藤先生
 多発性骨髄腫に関わるアダプター分子とシグナル分子の相互作用を修飾すると考えられる新規薬剤のデザインから、分子細胞レベルでの著明な効果、生体内での評価まで総合的になされていると拝見致しました。

論文要旨

 多発性骨髄腫は、骨髄微小環境に依存した進展を示し広範な骨破壊性病変を形成する。特に骨髄腫細胞と骨髄間質細胞との細胞間相互作用により骨髄間質細胞内のNF-κB経路やMAPキナーゼ経路など様々な細胞内情報伝達系が過剰に活性化され、腫瘍細胞の増殖や骨病変形成を促進している。
 ところで、p62(sequestosome1)は6つのドメインを持つアダプター分子であり、細胞内のこれらの経路において枢軸的な役割を果たしている。我々は以前、多発性骨髄腫患者の骨髄間質細胞にp62の下流分子PKCδが恒常的にリン酸化されていること、p62の6つのドメインのうちZZドメインが骨髄腫骨病変形成に寄与していることを見出した。
 そこで今回我々はp62-ZZドメイン特異的新規阻害薬(XRK3F2)を三次元バーチャルスクリーニング法をもとに合成し骨髄腫骨病変形成に対する有用性をin vitroおよびin vivoで検証した。その結果XRK3F2は骨髄間質細胞においてTNF-αによるNF-κB経路、MAPキナーゼ経路の活性化を抑制し、骨髄腫細胞増殖に重要なVCAM-1、IL-6の産生や破骨細胞形成促進因子であるRANKLの産生も抑制し、骨髄間質細胞を介した骨髄腫細胞増殖や破骨細胞形成が抑制された。また、XRK3F2は骨髄腫細胞に直接的な細胞死も誘導した。さらに、脛骨内移植によるマウス骨髄腫モデルにおいてXRK3F2は腫瘍細胞により抑制された骨芽細胞分化を回復し、骨破壊病変形成を抑制した。これは、腫瘍細胞と骨髄間質細胞との接着により誘導される腫瘍細胞からのTNF-αの産生がXRK3F2により抑制され、骨芽細胞分化を回復させたものと考えられる。以上の結果から XRK3F2は腫瘍細胞のみならず骨髄微小環境を標的とし、骨病変改善作用を有する新規薬剤となりうることが示唆された。
 

2. 内田昌樹(Indiana University)
著者

Masaki Uchida, Ben LaFrance, Chris C. Broomell, Peter, E. Prevelige, and Trevor Douglas

題名

Higher order assembly of virus-like particle (VLP) mediated by multi-valent protein linkers

雑誌名

Small

審査コメント

●根岸先生
 興味深い発想である。先ずはcreativeな発想に基づいて合成されたタンパク質ナノ粒子集合体が今後の更なる研究を押し進めるに値する結果を一刻も早くつかむことが重要と考えられる
●横田先生
 This is a very impressive paper for their cutting edge technology in nanoparticles.
●栗原先生
独自の手法によりタンパク質同士の特異的結合を利用したナノ粒子高次構造の成功は、今後の新規機能を発現するタンパク質集合体の開発に寄与する可能性が高く、選考させていただきました。

論文要旨

 多数のナノ粒子を集合させた三次元構造体は、個々のナノ粒子ではみなれない共奏的な物性を発現すると期待されているため、ナノ粒子集合体を構築する手法の開発が近年精力的に進められている。例えばこれまでに、DNA鎖を金属ナノ粒子表面に導入し、相補鎖DNAで修飾された粒子同士を選択的に集合させる手法などが報告されている。しかし、タンパク質同士の特異的結合を利用したナノ粒子高次構造体作製の例はほとんど知られていなかった。本研究では、バクテリオファージP22由来のタンパク質中空ナノ粒子であるP22 Virus-like Particle (VLP)と、P22表面の特定の部位に選択的に結合する小タンパク質であるDecoration Protein (Dec)を利用したリンカー分子からなるタンパク質ナノ粒子集合体の作製に取り組み、その開発に成功した。またP22 VLPとDecリンカーを固体表面に1層ずつ積層させる課程を水晶振動子マイクロバランス法によってモニターすることにも成功した。P22 VLPには磁性粒子や酵素など様々なゲスト分子を内包させることが可能なので、本研究で開発した手法は、新規な機能を発現するタンパク質集合体の開発につながる。
 

3. 寺師玄記(Purdue University)
著者

Genki Terashi, Mayuko Takeda-Shitaka

題名

CAB-Align: A Flexible Protein Structure Alignment Method Based on the Residue-Residue Contact Area

雑誌名

Plos one

審査コメント

●根岸先生
 タンパク質の構造を解析する新手法の開発を目的とした本研究はComplementary なものとして重要なものになる可能性を秘めていると考えられる。
●横田先生
 I was impressed by this paper for their cutting edge technology in computational analysis of protein structure.
●加藤先生
 タンパク質構造予測における類似性探索に、新たな考え方を導入され、効果を実証されていることに創造性を拝見いたしました。

論文要旨

 2015年現在、10万を超えるタンパク質の三次元構造情報が公開され、タンパク質分子の様々な解析を「三次元座標」の視点から行うことが可能となった。 
 タンパク質の三次元構造を解析する基本的な手法の一つに、二分子間の構造上の類縁性を検出する「構造アライメント法」がある。タンパク質の構造的類縁性は、機能的また遺伝的類縁性と密接な関係がることから構造アライメント法の開発は極めて重要である。現在の構造アライメント法ほとんどは「三次元座標が最も多く一致するように座標の対応関係を見つける」というものである。 
 しかしその一方で、タンパク質分子は生体内で一定の構造を持つのではなく、動的に変化している。そのため従来の構造アライメント法では、タンパク質の動的構造変化に対応できない問題が存在している。これは、タンパク質構造の類縁性を三次元座標の類縁性として定義している限り解決できない。 
 本研究で筆者は、タンパク質構造の類縁性を三次元座標からではなく、タンパク質分子を構成するアミノ酸のネットワークによって定義した。例えるならば、様々な形状をとる人間の手を、指一つ一つに存在する関節と掌の結合状態(ネットワーク)で比較するというものである。
 
 本研究の検証により、以下が明らかとなった。 
①本研究の手法により、動的構造変化に影響されることなくタンパク質分子間の類縁性を検出することが可能となった。 
②研究者が手動で行った構造アライメントに近い結果を自動的に計算することが可能になった。 
③研究者が手動で行ったタンパク質構造の分類により近い分類をすることが可能となった。
 本研究の手法によりタンパク質の構造情報から新たな類縁関係を見つけることができると期待される。
 この論文は一部をインディアナのPurdue University, Kihara Lab、残りの部分を日本の北里大学で行った研究成果である。